軽井沢について
はじめに
遡ること十数年前、事務所を立ち上たばかりの頃に、軽井沢で一軒の別荘を設計いたしました。
その縁でオーナーがご友人をご紹介くださったり、雑誌に掲載いただきまして、今は軽井沢で常時数件が動いています。
もともと軽井沢には幼少時代から別荘があり見知っていたのでその経験も活かされたのだと思いますが、軽井沢での設計活動が10年を超えたのをきっかけに、別荘をお持ちになりたい方々の参考になればと書き綴ります。
軽井沢との縁
私と軽井沢の縁は遡ること100年ほど前に曽祖父が西武創業者の堤康次郎氏から土地を買ったことから始まります。
なんといっても、堤氏は千ヶ滝の神社に自らの銅像を建てた人物ですから、軽井沢の開発への野心は大きかったと思われます。
しかし友人のよしみで購入したものの曽祖父はあまり興味を持たず、両親が別荘を建てるまで土地は放っておかれていました。
私の両親が友人の建築家、宮澤裕夫氏に依頼して建てた別荘は、1階のリビングダイニング及びキッチンが土足の空間でした。(元々のアイディアは父が訪れたフランスの友人宅が、納屋を改装した家で、床が土間のままだったことからだそう)
靴のまま室内から外のテラスへと繋がるというプランは、いちいち靴を脱ぎ履きするのが面倒な子供たちにとっては感動モノでした。
着いたらまずテラスの掃き掃除が私たち子供の仕事なのですが、秋は落ち葉を集めて焼き芋をするのが楽しみでした。
それから40年間、主に春から秋にかけて休暇を軽井沢で過ごしています。
長期不在にする別荘というのは、住宅とは違うメリットデメリットがあります。
デザインだけでなく、メンテナンスや、別荘の過ごし方に至るまでトータルでアドバイスしています。
今は常時、軽井沢で数物件が進行中なため毎週軽井沢に行く生活ですが、新幹線で1時間ですから日帰りが常です。
その分、別荘で過ごす時間は自分のリセット・タイムだと割り切って、燻製を仕込んだり、ガーデニングや掃除に熱中します。
なかなか東京では会えない忙しい友人たちとも軽井沢だと車で5分10分で行き来出来るので、夜はツルヤで買い込んだ食材でバーベキューしながら語らうのが最高の余暇です。
思えば、留学先のフィンランドでは、皆、夏はコテージでシンプルに過ごすことに徹していました。
休暇後に出勤したらパソコンのパスワードを忘れてしまっていたというのがジョークではなく本当によく起こっていました。
そしてそれは非難されるどころか、「そこまでリフレッシュできてよかったね!」と羨ましがられるのです。
別荘には違う時間の流れ方があると思います。
現代ではスピードが速いことほど重宝されますが、軽井沢に来ると、川の流れぐらいがちょうど良いと気付かされます。
軽井沢の自然
軽井沢は、他の避暑地と何が違うのでしょうか?
実は見落とされがちだと思うのが、特殊な土質による、樹木の美しさです。
軽井沢は、浅間山の火山灰による軽石層でなっており、土壌は豊かではありません。
そのため、木々は根が張れず、幹は細く高く伸び、太りにくいのです。
しかしだからこそ、葉も生い茂らず、繊細で、木々を抜ける風がそよぐとサラサラと音をたてます。
日本の森といえば鎮守の森のような鬱蒼とした濃さがありそれも魅力がありますが、軽井沢は違います。
その昔、宣教師たちがスコットランドのようだと驚いたように、儚ささえ感じる美しさです。
軽井沢と一口で言っても、植生や雰囲気は場所場所で違います。
軽井沢のネームバリューに惑わされず、しっかりと見極めるためにも土地探しからご相談いただければと思います。
軽井沢の地勢
ハルニレテラス辺りと南軽井沢とでは、真夏では数℃の気温差があります。
日本は地球温暖化で亜熱帯化しており軽井沢も年々平均気温が上がっておりますが、冷房した室内で暮らすのではそもそも軽井沢を避暑地として選ぶ意味がありません。
軽井沢中央の離山から降りてくる冷気を受けるかどうかなども地域によって違います。
平坦な南が丘、南原と、斜面地の千ヶ滝、三井の森辺りとでも気候が違います。
千ヶ滝の我が家にクーラーはありません。
自然の涼風を体感するのが別荘の醍醐味であるので、土地の特徴を読み取ることが大事です。
平坦地と斜面地
土地探しの最初に、平坦地と斜面地、どちらを選ぶかもポイントです。
平坦地は斜面地に較べて地価は高いですが、斜面地は土工事など工事費が平坦地の1〜2割増かかります。
平坦地は庭で走り回ったりガーデニング、 遊具を置いたり出来ますが、斜面地は出来ない点は要考慮です。
斜面地は眺望重視です。
プライバシーには、隣りの家と20m以上離れがあると良いでしょう。
軽井沢の建築費
近年の建築費の高騰は2024年現在、高止まりしていますが、来年春に軽井沢のコンクリート工事費は値上げするということが耳に入っています。
全国的に今後も建築費は高い水準を保つと思われます。
中古の別荘を購入し、改修するという方法もあります。(参考物件『啓紀荘 AB棟Renovation』参照)
軽井沢の設備
いつも、設計初期の段階でオーナーに伺うのが、熱源をどうするかについてです。
大まかにいえば、「電気」「ガス」「灯油」の3種類があり、これをどう組み合わせるかを、ライフスタイルによって考えます。
今のところ、灯油が最もランニングコストが低いため、一番多いのが「電気+灯油」の組み合わせですが、キッチンコンロにIHではなくガスを望まれれば、「電気+ガス」か、3種類全て取り入れます。灯油は安いですが、点検費用もありますから、別荘の利用頻度によっても組み合わせが違います。
また、設備で重要なのが、冬場の凍結防止についてです。
昔の別荘は夏しか利用しなかったので、11月になれば、水道管が破裂しないためにも、業者に依頼して水抜きしてしまいました。GW前ぐらいに(4月でも季節外れの雪が降ります)、再度、業者に開栓を依頼する必要があります。冬に利用したい場合、その都度開栓水抜きの費用がかかりますし、事前に依頼する必要があります。
しかし近年、別荘の建築費も価値も上がり、通年利用するようになり、しかも「いつでも思い立った時に」行けるような状態を求められるようになりました。
一般的なのは、配管に電熱線を巻いて凍らないようにし、コントローラーで、室温が低くなれば自動で床暖房が作動し暖める方法です。しかしながら、いくら制御していても、床暖房のランニングコストはそれなりにかかります。
このランニングコストを抑えるよう、床暖房だけではない凍結予防を提案しています。
軽井沢の工務店
東京以上に工事費が高いと言われる軽井沢の地元工務店ですが、昔から、数多の有名建築事務所の高級別荘を請け負ってきた歴史があり、高い技術力を誇ります。
工事費を重視して県外の工務店に依頼することも可能ではありますが、別荘の場合、久しぶりに訪れて気づく不備にもすぐに対応してくれる地元の工務店は大変心強いものです。
弊事務所は数十年に及ぶお付き合いのある工務店から近年活躍する工務店まで、規模や、オーナーのご要望に応じて、ピックアップしてお薦めしております。
建築の完成度は現場監督によるところが大変に大きいです。
優秀な現場監督を、計画当初から指名することもあります。
最後に
さてここに、10年前の2013年にオーナー向けに書いたメモが残っています。
「今が購入するのに価格交渉しやすい時期。現在はリーマンショック直前の軽井沢バブルも落ち着き、まだかなり地価が下がってきています。この十数年で異常と思えるほど上がった南が丘周辺は別として、旧軽や中軽、千 ヶ滝は1980 年代後半のバブル期以前の地価水準に近づいてきています。底に近いと言って も良い水準です。売り主も強気の価格は出せない状況の中で、良い条件の土地を賢くリー ズナブルな価格で手に入れるチャンスとも言えます。 今後軽井沢の地価が上向くかどうかは保証できませんが、少なくとも全国の他の別荘地に 比べれば、インフラの充実度、ブランド力から言って最初に地価が上がるのは軽井沢でし ょう。近年は海外(特にシンガポール、中国)から新しい購入者が加わりはじめています。」
このメモから10年経ち、予想以上に地価は上がり2倍の水準になりました。
例年の猛暑や、コロナ禍によりリモートワークが一般に浸透した今、圧倒的にインフラに長けた軽井沢の地価が下がる理由が見当たりません。
ネックがあるとすればオーバーツーリズムです。
もちろんこのことに関して見過ごされているわけではなく、2年前の町長の交代劇は、開発著しい軽井沢に歯止めをかけたい住民の意志の表れだと思います。
私は軽井沢の環境を守りたいと思い、別荘団体連合会に所属しました。
軽井沢の開発や条例について最新の情報を収集し、発信発言しつつ、軽井沢で別荘ライフを過ごされたい皆様の手助けをしたいと思っております。
船曳桜子